ラーニング・パートナー・モデル(Learning Partner Model)【ビジネスマンのための教養】

ビジネスの心理学
Learning Partner Model(ラーニング・パートナー・モデル LPM)

科学的な根拠に基づいた知識や情報が、日常において人から人へ伝わっていく一連の流れ

今回の記事では、Learning Partner Model (ラーニング・パートナー・モデル, LPM)を紹介します。

LPMとは、基本的には健康や医療などの分野で話題になることが多いですが、「情報を人々に正しく効率的に拡散するにはどうすれば良いか」というとても重要な命題が含まれており、ビジネスマンの方なども学んでおいて損はないと思います!

この記事はこんな人にオススメです!
  • 健康増進や医療分野に関心のある人
  • 教養を深めたいビジネスマン

普段の記事とは少しだけテイストが違いますが、ぜひ読んでみてください!

Learning Partner Modelとは

人から人へ情報が伝わる

LPMとは、科学的根拠に基づいた学習知識が、日常的な文脈において人から人へ伝達される一連のプロセスのことです。

人と人との関係性を重視し、この関係性の中で知識が伝達されると考えられています。

アメリカなどでは少し前から注目されている考え方ですが、最近では、日本でも注目が集まっています。

まずは、イメージが沸きやすいように一つ例をあげてみましょう。

LPMの例「Por la Vida」

アメリカのサンディエゴでは20年ほど前から「Por la Vida」という取り組みが実施されています。

サンディエゴでは、低所得層のラテンアメリカ人コミュニティのがん検診受診率の低さが問題となっていました。

がん検診受診率を高めるために推進されたのがこのPor la Vidaです。

Por la Vidaでは、まず市民の中から「consejeras(ラテン語でカウンセラー)」を30名程度選びます。

彼女たちは、医療などに携わる専門職ではないというところがポイントです。

選ばれた30名のconsejerasは複数回にわたって、がんの知識やがん検診に関する情報を学びます。

そして今度は、consejerasが講師となって、自分の身の回りの女性10数名に対してがん検診に関する講義を開くのです。
そうするとなんと、consejerasと周りの女性の両方ともが、がん検診の受診率が向上したのです。

さらに驚くべきことに、その後の調査では、consejerasが身の回りの女性を集めて講義をする際に、「家族や友人を2人選んで、ここで学んだことを伝えてください」と指示したところ、consejeras、身の回りの女性、さらにはその家族や友人のがん検診受診率が増加したのです。

このように、正しい知識が人から人に伝達される、すなわち広がっていくことで市民の健康習慣や健康に対する意識が向上していく、この流れがLPMなのです。

冒頭でも述べたように、LPMは医療や健康領域で取り上げられることが多いです。
貧困層であったり、教育水準が低い地域では特に大切な考え方であると言えます。

それでは、ただ単に知識を伝えるだけで、LPMは成り立つのでしょうか?

Learning Partner Modelの成功の鍵は?

「知識を人から人に伝える」、この言葉だけだととても簡単なように聞こえます。

それでは、LPMが成功するためには何が必要なのでしょうか?

【成功の鍵①】「自分にもできる」という期待

先ほどのPor la Vidaでは、consejerasと呼ばれる市民が、がん検診に関する知識を周囲に伝達していました。

このconsejerasは、がん検診に関する専門家ではありません。

一般に、友人や家族など、自分に身近な人や自分と似た属性の人が実践していることは、「自分にもできる」と感じやすいので、動機付けが高まると言われています。

今回のPor la Vidaでも、人々は自分と同じ属性のconsejerasに教わることで、自分にも大切なことなんだと思うことができたのでしょう。

また、ネパールの高校生を対象にした別の調査では、学生同士で学びあった知識は定着しやすいことが指摘されており、ここでも同年代から受け取るメッセージの重要性が示唆されています。

このように、自分と同じような人から教えてもらうことで、人々の学習に対するモチベーションや期待感が向上するのです。

【成功の鍵②】コミュニティに根ざした人物の活躍

そもそも、Por la Vidaでは、consejerasはどのように選ばれたのでしょうか?

実は、彼女たちはランダムに選ばれたのではなく、学校やコミュニティセンターの職員から推薦された人たちなのです。地域のひとが、この人なら大丈夫と選ばれた人たちがconsejerasに任命されました。

先程のネパールの高校生の事例でも、学生の中からリーダーを決めてリーダーが中心となって学び合いが進んでいました。

コミュニティの中で信頼されている人を選んで「知識の伝達者」としての役割を持たせることがLPMには大切なのです。

【成功の鍵③】既存のネットワークを大切にする

上の議論と重複しますが、LPMではすでに存在しているコミュニティのネットワークを大切にします。

そのネットワーク内で人から人に情報を伝えることをLPMでは重視します。

昔の日本風に言えば井戸端会議のような雰囲気でしょうか。
ネットワークを利用することで、情報をより多くの人に伝達することができるのです。

まとめ

本記事では、近年、健康分野で注目を集めているLearning Partner Model (ラーニング・パートナー・モデル, LPM)について説明してきました。

LPMは、コミュニティの中で正しく情報を広めるにはどうすれば良いかという、ビジネスなどにおいても大切な学びが含まれていました。

正しく情報を広げるためには
  • 自分と類似している人から学ぶ。そして、自分にもできるという期待と関心を持つ
  • コミュニティの中で信頼されている人に活躍してもらう
  • 元々あるネットワークを最大限活用する

最後まで読んでくださってありがとうございました!

(参考)

  1. Navarro, A. M., Senn, K. L., McNicholas, L. J., Kaplan, R. M., Roppé, B., & Campo, M. C. (1998). Por la vida model intervention enhances use of cancer screening tests among latinas. American Journal of Preventive Medicine, 15(1), 32–41.
  2. Navarro, A. M., Raman, R., McNicholas, L. J., & Loza, O. (2007). Diffusion of cancer education information through a Latino community health advisor program. Preventive Medicine, 45 (2–3), 135–138.
  3. Poudel, K., Sumi, N., & Yano, R. (2021). Impact of Peer-Led Cancer Education Program on Knowledge, Health Beliefs, Practice, and Self-Esteem Among Pairs of Nepalese High-School Students and Their Knowledge-Sharing Partners. Healthcare (Basel, Switzerland), 9 (1), 64.
  4. 助友 裕子 & Navarro, A. M. (2016). 市民向け講座で得たがん予防知識が受講者以外の 地域住民に普及する可能性-Learning Partner Model を用いた検討. 日本健康教育学会誌, 24 (1), 12–22.
  5. 助友裕子. (2018). 健康教育からヘルスプロモーション活動を促進するLearning Partner Modelーがんの教育・普及啓発の事例ー. 日本健康教育学会誌 ,26 (1) , 93–99.
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